能登半島地震 ─ 寄付・支援情報

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2012年4月15日日曜日

映画『ハッピーニート おちこぼれ兄弟の小さな奇跡/Jeff, Who Lives at Home』;小さなサインの積み重ね





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Jeff, Who Lives at Home2011年)/米/カラー
83分/監督;Jay Duplass, Mark Duplass
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現在公開中のアメリカ映画『Jeff, Who Lives at Home』。直訳は“うちに住むジェフ”かな。

忘れないうちに感想を。

主人公はアメリカのひきこもり君。30歳で母親の家の地下室に住んでいる。階上にめったに上がらないと言っているので、ほぼ地下に独立したアパートを間借りしてるようなものだろううか。当然未婚、無職。身なりにも構わない。ちょっと前のメル・ギブソン主演の映画『サイン』を見て何か啓発を受けたらしい。ぶつぶつ言っている。ガールフレンドは高校生のころからいない。お兄さんは彼とあまり係わり合いになりたくないみたいだし、母親は彼にせめて「ソファーから動いてほしい」と心配して用事を言いつける。

日本だったらネット中毒のひきこもり君を想像してしまうけど、この映画、このひきこもり君が外の世界に出て行くお話。このタイトルで誤解をしてしまう方も多いかもしれない。話の展開も地味。だんだん話の輪郭が見えてくるのは半分以上過ぎてから。なので、若い人がデートで見るのには向かないと思う。ある程度人生に経験のある年齢層の方が向いていると思う。

結果は満足。最近アメリカのインディーズ映画によくあるタイプ。可愛くて、ほほえましくて、ちょっと考えさせられる話。小さな喜びの映画。傑作ではないが、こういう映画にあまり文句は言いたくない。

★ネタバレ注意
30歳になってもひきこもっているジェフ君。ほんとに情けない。映画の主人公なのでかろうじて心配するけど、実際にこういう人がいたらかなり苦しい。無職でひきこもりなのはともかく、わけの分からないスピリチュアルな事を呟いててちょっと危ない。イイ奴だけどかなり心配だ。唯一本人が非常にマイペースなのが救いだろうか。

話が進むにつれて、ジェフ君のお兄さんの夫婦間の危機、それに退屈でつまらない日々を送っていると嘆く母親、そんなジェフ君の周りの人々の小さな問題が浮き彫りになってくる。ともかく「サイン」を探し続けるジェフ君。ゆるいコメディ・小さな幸せ系の映画。

この手の映画、ここ1015年ぐらいだろうか…アメリカ映画に増えてきた。『アメリカンビューティー』の冴えないサラリーマンがきっかけだろうか(あれはバリバリにハリウッド映画だったけど)。『アメリカンスプレンダー(2003)』『リトルミスサンシャイン(2006)』『サイドウェイズ(2004)』『Barney's Version (2010)』…。これらの映画、どれも悩み多き普通のアメリカ人の話だ。殺人事件も起こらない。スーパーヒーローもいない。美男も美女も出てこない。主人公はうだつの上がらないサラリーマン、事務職のおじさん、凸凹ファミリー、冴えないワイン通…等など、どこの町にもいそうな普通の人達だ。面白いのは、こういうインディーズ系のこの手の映画、英語圏では非常に評価が高い。特に中流のインテリ層が好きそうだ。どうやら「見ていろいろと考えさせられる映画」ということらしいのだ。

数が増えてきたせいで、最初は斬新で真摯で面白かったものが、だんだんと鼻につくこともある。あまり立て続けにこういうタイプの映画を見ると、無性にトムクルーズあたりの映画が見たくなる。要は地味な映画なのだ。アメリカの私小説風文芸映画と言ってもいい。この映画もそのタイプ。最初かなりペースが遅いので、いつ面白くなるかと心配になる。

基本は、ジェフ君とお兄さんが町中を走り回る話。ジェフ君は「サイン」を、お兄さんは彼の問題を追いかける。それに全く関係の無い母親のオフィスの話。この2つの話がストーリーの軸になる。一つ、二つと小さいけれど印象的なシーンが少しづつ話を構成していく。ジェフ君は「サイン」の意味を見つけるし、お兄さんは彼の問題を解決。母親も彼女の問題を解決するのだ。最後は皆やんわりとハッピーになる。

問題はジェフ君の「サイン」なのだが、この最後の「サイン」がらみの話のオチを、観客が受け入れられるかどうかで、映画の評価も大きく変わってくるかと思う。たぶんぎりぎりのところで成功しているのではないか(誰も殺さなくてほっとした)。特に2人の女の子が「パパが助からなかったら…」とTVのインタビューで答えるところに、ジェフ君の亡くなった父親の事を重ね合わせればその意味も大きくなる。もともとはジェフ君を疎んじていたお兄さんも、その日1日ジェフ君と一緒にいたことで大切なことに気付かされる。

サイドストーリーとして、母親の話は唐突にも思われるが、中心の兄弟の話とは別に、面白いスパイスとして見れると思う。本来ならこれだけで話が作れたかもしれない。問題のキスシーンは不快に思う人もいるのかもしれないと思うが、それほど直接的な意味は無いだろう。この母親の話、彼女が退屈な日常の中で人生を一緒に楽しめる友人を見つける話と思えば納得できる。彼女がそのことに気付く「滝」のシーンが詩的だと思った私は単純かもしれない…(笑)。

なんと言ったらいいか…。この映画、たぶん功名に出来た傑作ではない。しかし言いたいことはなんとなく分かる。ジェフ君のサインがそうであるように私たちの人生もたくさんの偶然や小さなエピソードが日々重なっている。そんな小さなサイン(偶然)に気付けば、人生、もっと違ったものになるのではないか…。それに小さいけれど大切な日々の事にももっと気をつければ、もう少し幸せになれるのではないか…。そんな話かと思った。

余談だが、ジョン・アービングの本『オウエンのために祈りを』を思い出した…。あれも、小さな偶然(必然)の積み重ねに神様の存在を見る話だったと思う。こういう映画が評価されるのならアメリカも捨てたもんじゃない。トムクルーズの映画の世界は、結局私たちの日常生活には何の関係もないことを、多くのアメリカ人もとっくに気付いているのだ、アメリカが日常の幸せというものに真摯に向き合ったFeel Good映画。小さいけどいい話だと思う。

追記;大昔(1986年)C. Thomas Howell主演のコメディ『ミスター・ソウルマン』に出ていて可愛かった女優Rae Dawn Chongが見事に中年のおばさんになっていてびっくりしたぞ。