能登半島地震 ─ 寄付・支援情報

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2012年5月13日日曜日

映画『ハンガー・ゲーム/The Hunger Games 』:"Big Brother is watching you"


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The Hunger Games 2012年)/米/カラー
142分/監督;Gary Ross
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『ハンガーゲーム』を見てきた。女優さんが上手い。


日本ではとにかく『バトルロワイヤル』との比較になってしまうと思うが、話としても映画としても全く違うと思う。『バトルロワイヤル』が演技も設定も終わり方もあまりリアルに感じられなかったのに対して、これは話も演出も演技もかなりリアル。心理劇としてもよく出来ていると思う。主役の女優ジェニファー・ローレンスさんが抜群に上手い。この女優さんを見るだけでも価値があると思う。
この手のものでありがちな意図的な残酷描写は一切ない。アメリカでは13歳以上の指定になっているが、話の設定がまず「子供が殺しあう話」なので、そのことに対する配慮かと思われる。痛い描写や気持ち悪くなるような場面はほとんどなく、内容上暴力的な場面もことごとく早送りやぼやけた画面で分かりずらくしてある。残酷描写を避けたことで、ショッキングなシーンのみが話を引っ張るのではなく、登場人物の心理劇として非常に質の高いものになっていると思う。…ので、残酷描写が苦手な人でも大丈夫 
もともと非常に売れているティーン向けの小説の映画化らしいのだが、「子供が殺しあう」のキーワードだけで私も『バトルロワイヤル』のリメイクまたはパクリだと思っていた。前知識の全くない状態で鑑賞。面白かった。個人的に100%満足だと言いきれないのは、原作がそもそもティーン向けの小説のせいだからではないかと思う(後述)。それでも映画として十分に成功していると思う。



ネタバレ注意


設定は未来(これも近未来だろうか)。舞台は独裁国家パネム。富裕層の住む大都市キャピトルとそれを支える下層階級の住む12の地区。年に一度、12地区それぞれから、12歳~18歳の男女のペアが選ばれ、集められた計24人が野に放たれ最後の1人になるまで殺し合いをする。そもそもは、過去にあった下層階級の富裕層に対する反乱への見せしめとして始まった。そんな悪しき習慣がもう74年も続いている。
12の地区はそれぞれ20世紀初頭の労働者階級のような厳しい生活を強いられている。選ばれた男女のペアはキャピトルに集められるのだが、そこに住む人々の生活は豊か。18世紀の貴族を思わせるような、いかにも西洋風近未来のイメージの人々が集う。ちょっと前のエントリーで書いたSwedish House Mafia GreyhoundPVAbsolute VodkaとのタイアップCM)とほぼ同じ系統の服装の人々。ああいうのが西洋の近未来の定番のイメージとしてあるのだろうか。
この子供の殺し合いは、そのままTVで生中継され(首都の富裕層も各地区の下層階級も)国民全員が見守る中で繰り広げられる。ローマのグラディエイター(奴隷の殺し合い)まがいのスポーツ観戦として、それから西洋では盛んなリアリティーTVまがいの娯楽として消費される。勝ち残った者は国民的英雄になる。まぁとにかく野蛮な話なのだ。


英国に住んでいた頃『ビッグブラザー』というリアリティーTV番組が大変な人気だった。元々は1999年のオランダの番組だったらしいのだが、その内容は「完全に外部から隔離され 全ての場所にカメラとマイクが仕掛けられた家で、十数人の男女を3ヶ月生活させ、彼らの生活を 喧嘩・セックス・互いの脱落させ合いに至るまでの全てを放送するリアリティ番組である。(Wikipedia)」というもの。

タイトルの「ビッグブラザー」とは、ジョージ・オーウェルの小説『1984』からのもので、参加者を24時間撮影し続ける監視カメラ(視聴者)を小説の「ビッグブラザー」に例えたもの。一般の応募者から選ばれた参加者で行われるのだが、たまに有名人でやることもあり、興味本位で一度見たことがあった。
参加者は、毎回視聴者からの人気投票によって最下位だったものが一人ずつ落とされていく。最後に勝ち残った者は文字通りスターになった(おそらく長続きはしなかったと思うが)。この映画の『ハンガーゲーム』のフォーマットも全く同じ。勝ち残ったものが殺し合いで勝った結果ということが違うだけ。その為こういう番組を見たことのある者には非常にリアルな設定に思える。(そういえば、参加者をジャングルに住まわせて、同じように監視カメラで追い、同じように視聴者の投票で落としていくサバイバルものの番組もあった。それなんて、殺し合い以外はほぼ映画と同じ設定だ)

追記:この番組、現在2012年にもアメリカで放送してました。知らなかった。

 
リアリティーTVの説明が長くなってしまった。ともかく内容は主人公の心理劇。カメラはただひたすら主人公の表情を追い続ける。観客も全体の状況を見渡すのではなく、彼女と一緒にこのサバイバルゲームに参加しているような気になる。どこで何が起こっているのか、誰がどこで殺し合いをしているのかは、彼女が実際に経験し見ているものしか描かれない。そのため彼女の視点で非常にリアルだ。
なによりも主演の女優ジェニファー・ローレンスさんが上手い。顔のパーツが小さくて目の色も鈍い灰色の非常に感情の分かりにくい顔つきなのだが、その一見無表情な顔つきが、主人公の抑えた感情の下の強靭な精神力を上手く現しているように思えた。妹に対する責任感、友情、怒り、恐怖、緊張、あせり、安堵、悲しみ…等など様々な感情がめまぐるしく表情に表れる。
この女優さんの顔はあまり記憶に残らない。目鼻立ちも小さい地味な顔だ。…が、こういう顔だからこそ、どんな役もこなせる万能の職業女優になる可能性も大きい。上手いと思っていたら、去年、まだ20歳そこそこなのに映画『ウィンターズ・ボーン』で、他の大女優達とともに各賞にノミネートされたそうだ。楽しみな女優さんだ。(…と思ってネットで調べたら、元々の女優さんはかなり華やかなブロンド美人。すでにスター然とした佇まい。映画の役柄とまったく印象が違うので驚いた。髪の色だけでこんなに違うものだろうか。すごいですね。)



「個人的に100%満足だと言いきれない」と書いたのは、最後の終わり方のせいだ。話として違う展開もあったと思うのだが、原作に忠実に描かれているらしいので変えようが無かったのだろう。個人的には、彼女1人だけが生き残ってもよかったのではないかと思った。あれだけ極限の状況を経験したのだから、2人とも助かったことでまとめてしまうのではなく、1人だけ生き残って苦悩する方がよかったのではないか(当然あまり気持ちのいい終わり方ではない)。いずれにしても、あのような残酷な殺し合いの結果勝ち抜いた勝利者なのだ。もう普通の生活には戻れないだろう。そのあたりをもう少し踏み込んで見てみたい気もした。原作はシリーズが続いているらしいのでそのあたりも理由なのだろうと思う。
ところで、ミュージシャンのレニー・クラビッツが出ていたぞ。映画なんかに出て何をしているのだろう? 暫く見なかったがいつまでも若いなと思う…。