能登半島地震 ─ 寄付・支援情報

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2012年11月13日火曜日

映画『フライト/Flight』:デンゼルさんはいい俳優さん


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Flight2012年)/米/カラー
138分/監督; Robert Zemeckis
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心理劇です。アクションムービーではありません。

まず最初にハリウッドのスタジオがこの映画をどのように売ろうとしているのかと、実際の映画との違いをはっきりさせたい。

もうネット上にも出ている映画の予告では、この映画、どうもアクション映画に見えてしまう。それもそのはず。主役はあのデンゼル・ワシントンさん。いつも強面のがっしり筋肉おやじ。その彼が今回は旅客機のパイロット。機器の不具合によりコントロールを失った飛行機を、このヒーローはたった一人で救う。なんと上下逆さまに飛んで一回転させて無事着陸(ええぇ…そんなこと可能なの?)。ところが事故後の調査で彼の血液中にアルコールが検出される。彼の技術により未曾有の大参事を免れたのは事実。それは誰も疑わない。だが乗務員2人を含む6人がこの事故で亡くなった。調査が入る。さて彼は本当にヒーローなのか…。

まず旦那Aがこの予告編をみてアレルギー反応を起した。この予告編の印象で、彼はこの映画が「アルコールをちょっとばかり飲んでたけど、飛行機をひっくり返して飛んで(アホのような話)無事着陸させた素晴らしいヒーローの話。デンゼルはやっぱカッコイイな的な映画」だと思ったらしく、そのようなハリウッドのアホ話には付き合えん!と言い張った。実は他に見たい映画も無かったので、結局いろいろと調べていたら、それ程浅はかなヒーローものでもないらしいと思い(あとは私の直感)嫌がる旦那Aを無理やり引き摺って見に行った。

良かったです。良作。旦那Aも大変満足したそうだ。
 
そんな風に、予告編を見ると音楽のノリも(アメリカ版の予告です。日本版はもう少し真面目)何もかもデンゼルさんのアクションヒーローものに見えてしまうのだけど、全く違う。実は非常に丁寧にリアルに作られた心理劇。この映画をアクションものだと思って見に行くと大変ガッカリさせられると思う。
 

ネタバレ注意

 
そんな風に予告編を見ると誤解をしてしまうので要注意。

監督はロバート・ゼメキス。『コンタクト』『フォレスト・ガンプ』『バックトゥザフューチャー(シリーズ)』のハリウッドの大御所監督。最近の映画は見ていないけど、まあこんな監督さんがそれ程ダメなものを撮ることも無かろう。

この監督と今回組んだ主役がデンゼル・ワシントン。実は私はあまり良く知らないのだが、この人はどうもがっちり筋肉質の強い男の印象が強い。古典的に強い男。優しいロマコメに出るようなタイプではない。威厳に溢れていて知的でとんでもないカリスマ。殺人鬼から大統領までこなせる実力派。かっこいいけど怖いおじさんタイプだと思っていた。とにかく正統派のカッコイイ人。

そんな二人の組み合わせだから、旦那Aが(それに多くのこの映画の観客が)この映画を大掛かりなヒーロー映画と思っても納得できるというもの。ところがこの映画、実はアルコール中毒患者のあまりにもあまりにもリアルな話なのだ。あのデンゼルさんがカッコワルイ人をものすごくリアルに演じている。


デンゼルさんがものすごく上手い。脚本もいいんだろうと思う。これほどまでにカリスマと自信に溢れ堂々とした人物が、同時に実はどうしようもないほどのアル中だったという話。普段の彼があまりにも自信に溢れているので、一緒に暮らさない限り彼が中毒患者だなんて誰も思わない。もちろん彼自身も自分が中毒だとは思っていない。今までも上手く(隠して)やってきた。パイロットとして、プロとしてのプライドもある。自信があるからこそ自分の非を認めることが出来ない。体力もあって身体も大きいせいなんだろう、自分に対する絶対的な自信と誇りのために現実を見ることができないのだ。そうやって自分に嘘をつき、家族や回りの人々にも常に嘘をついて生きてきた。これがもうほんとにほんとにリアル。

これでデンゼルさんの株が上がったね。いやー素晴らしい俳優さんだ。こういうリアルな人間の弱みを見せてくれるような話が実は一番興味深い。上手い俳優さんは演技を見るだけで娯楽。いつもとってつけたように男らしくてステキなデンゼルさんが、ここまで弱い人間を演じてくれるとは…。惚れたわよ、マジで…俳優として。急にこの人に興味が湧いてきた。

自分が自分ににつき続けた嘘が、そのうち会社の政治的な駆け引きにも絡んでくる話の展開もドキドキする。彼の嘘がいつの間にか後戻りの出来ないものになっていく。自信たっぷりの強い男が徐々に追い詰められていく心理劇。ハラハラします。さあ彼はどうするのか…。

おっと…飛行機が落ちる場面は怖いです。海外在住の人間には非常に辛い。

これ、アカデミー主演男優賞…いくかも…。