能登半島地震 ─ 寄付・支援情報

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2016年12月27日火曜日

映画『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命/Jackie』(2016):凝り過ぎた演出・頑張りすぎの女優




 
 
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Jackie2016年)/チリ・仏・米/カラー
100分/監督:Pablo Larraín
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Jackie…伝記というよりも「事件」に関する映画。
 
ジャクリーン・ケネディ(後のジャクリーン・オナシス)=ジャッキーは60年代初期のJ.F.ケネディ大統領の奥さん。米国上流階級の出身で美しく上品。24歳で12歳年上のジョン・F・ケネディと結婚し、196031歳でアメリカのファースト・レディとなる。
 
19631122日、夫婦ともにテキサス州ダラスに到着。空港からのパレードの最中に銃撃され夫はジャッキーの腕の中で命を落とす。彼女は34歳。その「事件」の後の1週間を「LIFEマガジン」のTheodore H. White氏による彼女へのインタビューで振り返る。
 
描かれた内容は、
 ・1962年のファースト・レディによるホワイトハウスのツアーの
  テレビ放送映像の再現
 ・1963年の夫の「暗殺事件」
 ・夫ジョン・F・ケネディ大統領の国葬
 ・司祭とジャッキーの会話
 ・夫の死から1週間後、ジャッキー自らの発案でのインタビュー


★ネタバレ注意

実験的な映画です。いかにもオスカーを取る気で作ってる。最初の一音…弦楽器の大きな音から非常に不快で普通の映画じゃないなとすぐに思う。

ナタリー・ポートマンの熱演に次ぐ熱演。彼女もオスカーを狙っている。しかし私はこの映画を見て、改めて彼女はいい女優さんじゃないのかなと思った。

…演技が硬すぎる。肩に力が入りすぎ。いつも同じ顔。Black Swanの時もStar Warsのパドメの時も常に顔が強張ってる。彼女御本人の知性がいつも見えてしまうのが問題なのかも。頭のいい女優さんが一生懸命演技をしてます!…という感じ。

毎回そう。この映画でもジャッキーさんのアクセントを真似て、そっくりの話し方をしているのに、どうもしっくりこない。映画全編でジャッキーさんを演じているというよりも、物まね大会を見せられている気になる。心が入っていない。ナタリーさんご本人が消えていないのね。
いつも
「演技してますよ」
と見せ付けられている気になる。女優さんとしてそれはいかんだろう。どうしてなんでしょうね。テクニックは十分にあるんだけど役になりきっていない。
 
 
ジャッキーさんのように、現代人でメディアでもよく知られた人物を演じる…その人物になりきるというのはどんな女優さんにも難しいのだろうと思う。1962年のホワイトハウスのツアーの(テレビ放送の)元の映像Youtubeにあったので見たけれど、ジャッキーさんとナタリーさんとは全く違う。
 
…ジャッキーさんはいかにも育ちのいいお嬢さん。物腰が柔らかい。ホワイトハウスの歴史的な遺産、芸術品を嬉しそうに語るジャッキーさんは明るく朗らかでまた同時に落ち着いていて上品。…このお方がなぜ現代にいたるまでファッションアイコンなのかがよくわかる。素敵なのは彼女の全身から醸し出される上流階級の優雅さ上品さ。当時のアメリカの女性達は、彼女をプリンセスのように見て憧れたんだろうと思う。
 
ナタリーさんの物まねはその足元にも及ばない。ごめんね。
 
…最初からキリキリキリキリ神経衰弱にかかったように病的に表情が硬くどこか自信がなさそうにおどおどして深刻でまったく魅力的じゃない。せめて「事件」前の彼女は朗らかに優雅でなければ。ナタリーさんは頭がよすぎて演技を考え過ぎてしまうんじゃないのか。

 
映画そのものも実験的。場面場面の時間が前後している構成。異常なほどの顔へのクロスアップ…いつも顔の半分か切れているぐらいカメラが人物達に寄っていく。不快で神経に障るような音楽…。
 
ジャッキーさんが「事件」の後ホワイトハウスに帰ってきてもスタッフが全くいないのは不自然じゃないのか。たった一人でモデルみたいに色んな服を着て考え事?不自然。変だわ。
 
 
わかっているのよ。あのような形で夫を亡くす事がどれだけ恐ろしい事なのか。そしてその後の1週間、ジャッキーさんがいかに毅然と振舞ったのか。夫の国葬を豪華なショーにプロデュースし、自らは悲劇のヒロインとなり、夫のホワイトハウスでの日々を英国の「アーサー王伝説」のキャメロット(後述)になぞらえてJFKの「美しい伝説」を作りあげるまで、彼女がどれだけ強くあったのか。
 
そこなのね。34歳の女性が、想像を絶する状況で夫を亡くし、その後どれだけ気丈であったか…という映画なんですこれ。そこに焦点を当てているから最初から空気が張り詰めている(ように作っている)。大変重苦しい。
 
ナタリーさんの演技もコチコチに硬い…たぶんそれは全体の雰囲気によるもの。なんというかなぁ…この映画、
頑張りすぎ
という感じ。
 
ジャッキーさんの映画なのにジャッキーさんの育ちのいい優雅さも上品さも見えず、女優さんも最初からキリキリ緊張して重苦しく過剰演技。構成も凝り過ぎ。演出も暗い。しかしあそこまで不気味にしなくてもいいのに。ちょっとホラー映画みたい。
 
 
それでも、暗殺のシーンではゾッとする。一瞬映る車中のジャッキー/ナタリーさんのゆがんだ顔で全ての文句が消えてしまう。怖いシーン。想像を絶する。こういう事が実際に起こったという事実があまりにも大きくて、映画の凝った演出や女優さんの無駄な頑張りを全て押し流してしまう。「事件」が起こったその事実に圧倒される。
 
結局、史実に脚色して、いかにも芸術映画らしく見せている事が鼻についたということなんだろうと思う。意図はわかるけれど、あまりいじらなくても史実そのものがショッキングなんだから素直に見せてくれればいいのにと思った。
 
ケネディ大統領の国葬で、幼い息子さんJohn JohnJohn F. Kennedy Jr.が父親の棺に敬礼をする有名な場面も意図的に映さないなんて、あまりにもひねくれ過ぎ。そんな監督のひねくれた見せ方が非常に鼻につく。素直に観客が見たい物を見せて泣かせなさいよ…と思う。見せたい内容は理解できるし素晴らしいけれど色々と狙い過ぎて見せ方を間違った映画。惜しい映画だわ。

それにしてもケネディ大統領の俳優さん(Caspar Phillipson)はよく似ている。弟ボビーさんの俳優さん(Peter Sarsgaard)も悪くない。
 
この映画に出てくる2人の子供…娘さんのキャロライン・ケネディさんは現在の駐日大使。

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キャメロット/Camelot (musical)
英国「アーサー王伝説」を元に描かれたブロードウェイ・ミュージカル。キャメロットとはアーサー王の王国の都。1960年初演。1963年「事件」当時も上演されていた。劇中の最後の歌の歌詞
"Don't let it be forgot, that once there was a spot, for one brief shining moment that was known as Camelot." (忘れずにいよう…昔一瞬の間光り輝いた場所があった…それをキャメロットと言う)をケネディ大統領の時代のホワイトハウスに例え、件のLIFEマガジンの記事では、
“a magic moment in American history, when gallant men danced with beautiful women, when great deeds were done, when artists, writers, and poets met at the White House, and the barbarians beyond the walls held back.”(アメリカの歴史の魔法のような時代…勇敢な男達が美しい女達とダンスを踊りながら、正しい政治を行い、芸術家や文筆家、詩人がホワイトハウスに集い、野蛮人達は壁の後ろでしりごみしている時代)と書かれた。後日記事を書いたWhite氏は、この記事に書かれたケネディ時代のイメージを、事実とは違っていたと述べている。
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