2017年3月13日月曜日

NHK ドラマ10『お母さん、娘をやめていいですか?』全8話・感想


  
秀逸。質が高い。素晴らしいドラマ。重いですね。設定がリアル過ぎて苦しくなる。「母娘の戦い」の描写に息を飲む。
 
母親と娘(特に一人っ子)は、どこの家でも多かれ少なかれその関係がギクシャクする時期があるものだと思うけれど、そんな母と娘の関係にここまで詳しく踏み込んで描いたドラマは珍しいのでは。
 
 
★役者が素晴らしい
 
母親の顕子(斉藤由貴さん)のあの壊れっぷりは、リアルというよりも(視聴者にわかりやすくするために)誇張して描いているんだろうけれど、まぁ~~~怖いですね。見ていて苦しくなる。斉藤さんお見事です。
 
娘さんのみっちゃん/美月(波瑠さん)に大きな拍手。主演女優賞! 最初から最後まで彼女の演技が光ってました。上手い女優さんだ。彼女の顔を見ているだけで、美月の苦しみがひしひしと伝わってくる。母親にストーカーまがいにつけられているのを知って顔色が変わる様子。母親と口喧嘩になってもすぐに折れて自分を抑え「いい娘さん」でいようとする様子。必死で抵抗を試みるものの母親の異常さに押されて途方にくれる表情…なすすべもなく引き下がってしまう様子。彼女の目に絶望が見える…素晴らしいです。彼女の上手さがこのドラマの要。本当にいい女優さん。
 
 
★怖いほどリアルな祖母、母、娘の関係
 
キャラクターの設定がリアル。美月の母顕子と彼女の母(美月の祖母)の関係が「顕子と美月の関係の歪みの元」だという設定がリアル。脚本家さんはどこからこの設定を思いつかれたのか。怖いくらいリアル。おかしな母親は彼女自身も母親との関係で悩んでいることが多い。
 
顕子は元々非常に感情の起伏の激しい人なんでしょう。人との関係を感情だけで築く人。何事もサバサバと出来ない。好きになったらべったりだし嫌いになったら絶対に嫌い。いろんな意味で情が深くてToo Muchな人。
 
そんな女性が(不幸なことに)サバサバしてあまり優しくない母親・玲子(大空眞弓)に育てられた。子供の頃からあまり温かい愛情をもらっていないんだろう。あの年老いた母親は「あんたにはがっかりした」とか顕子に言ってたっけ?
 
 
母親から十分に愛情を与えられずに育った女性が、あまり真剣に考えずに適当に結婚していろいろと満たされなかったところに、可愛くて優秀な女の子が生まれた。子供は100%の愛情をくれる。子供はいつも「いい子」でいつもフルの愛を返してくれる。愛したら愛し返してくれる。何でも言う事をきいてくれる「いい子」…そうやっていつしか母親は子供が自分の人生の全てだと思うようになる。母親は子供の存在に依存するようになる。
 
12歳を過ぎる頃には、娘に自我が芽生えてくる。娘の反抗期が始まる。母親は狂ったようにそれを押さえつける「みっちゃん、そんなことないでしょ。ママの言うとおりにしていればいいのよ」。
 
元々「いい子」だった娘はママをがっかりさせたくない。ママといつも仲良くしていたい。娘は次第に自分を抑えるようになる。自分の気持ちを押し殺すことが習慣になってしまう。そうやってこのドラマの美月は20代半ばまで自分を押し殺してきた…。
 
こんなふうにドラマが始まる前の数十年間を想像出来ますね。だからすごいのよこのドラマ。こういう話って現実にもありますね。子離れ出来ない困った母親と、自己主張出来ない「いい子」な娘の関係の歪みの根はだいたいこのあたりにある。恐ろしいほどリアルです。
 
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母親が自我を持ち始めた子供(特に娘)を押さえつけて、狂ったように叱ったりする行動は境界性パーソナリティ障害(Borderline personality disorderによるものらしい。顕子もそのように見えますね。ちょっっとWikipediaから思いつく症状を抜き取ってみると

・現実に、または想像の中で見捨てられることを避けようとする気も狂わんばかりの努力
・顕著な気分反応性による感情不安定
・不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困

顕子の行動、言動はこれにかなり近い。
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…こういう母親って現実にもいますよ。自分の満たされなかった心を子供(特に娘)で満たそうとする母親。子供を自分の支配下に置いて完全にコントロールすることで自分を満たそうとする母親。子供にいつも「自分のために都合のいいいい子」であることを要求する母親。娘に愛を与えそれ以上の愛を要求する母親。…愛に飢えているのは母親の方。

心を病んだ顕子のキャラクターの設定があまりにもリアルなので話に引き込まれる。ドラマらしく大袈裟すぎる顕子の異常な行動(娘のデートにストーカー行動、嫉妬に狂い新築の家に忍び込んで汚す、娘の恋人にすがりついて泣く、娘には恋人と別れろと言う、家を出た娘の恋人の家に勝手に上がりこんで掃除をする、料理を作る…)も、まぁドラマとしてならアリかな…と思えてしまうのは、基本の人物の設定がしっかりしているから。現実的にはありえないですよね、あんな母親。怖すぎる。

斉藤由貴さんが怖いんだわ。まさかここまで酷い人は現実には少ないだろうけれど。しかしこのような母親のエゴはどんな母親にも多かれ少なかれ存在するものなのかもしれない。


斉藤由貴さんがこういう母親の役をなさっていることも考えさせられる。彼女は私とほぼ同世代なんだけれど、私の世代の女性があれほど子供に執着、依存するものなのか不思議。というのも私の世代は若い頃にバブルがあった世代で、この世代というのはそれ以前の時代の女性よりもずっと自由だったから…女性も若いうちから自立して自分の意志で人生を切り開くことができるようになった世代。時代が豊かになって、過去30年間、娯楽でも物欲でも自分を楽しませることはいくらでもできたはず。だからこれほど過去の母親との関係に押さえつけられ、また自らも子供を押さえつけてしまう女性が今の私の世代にいることに実感が湧かない。本当にこんな寂しい母親、私の同級生にもいるんだろうか?

そもそも子供を持たなかった私にはわからないことも沢山あるんだろうと思う…絶対にわからない。無理無理。娘/子供とはこんなにべったりと執着、依存したくなるほど可愛いものなんだろうか。不思議。


とにかく見事です。優れた人物設定に、上手い役者さん、身につまされる普通の家庭内の不協和音。秀逸なドラマだなと思う。


★脇役もいい

基本は母と娘の話ですが、周りを固めた俳優さんもよかった。

ふてくされても美人の学生・後藤さん(石井杏奈)。石井さんは何かが気になる。なぜなのか今はまだわからない。でも彼女のことはどうも気になる。これは書きとめておこう。これから人気が出るかも。

影の薄いお父さん(寺脇康文)。いろいろと可哀想だけれど、…しかしこのお父さんは若いうちから奥さんときちんと会話をしてこなかったんでしょうね。奥さんのわがままをどうしてあれほど野放しにできるのか。優し過ぎるんだろうなぁ。困りましたね。

それから美月が自分の周りに築かれた「鳥カゴ」に気付くきっかけを作ってくれた松島君(柳楽優弥)。この俳優さんはいい。男らしい。どこか古風な感じがする。この俳優さんも今どき珍しく年齢相応に男臭い。それがいい。このお方もどこか昭和の俳優さんのような雰囲気がある。

そもそも松島君のキャラクターの設定がなぜか古風な男なのね。適度に強引で、適度に踏み込んでくれる。笑顔に見え隠れする照れも可愛い。柳楽さんはまだ26歳だそうですが、どこか頼りたくなるようなしっかりとした雰囲気は、柳楽さんが結婚していらしてお子さんがいらっしゃるからかもしれません。同年代のアイドル俳優には見えない落ち着いた男らしさがある。この俳優さんは、いつかいい時代劇で見たい。(いい時代劇を書ける脚本家がいるかどうかは疑問だけれど)


しかしこの松島君を見ていて思った。女性は、結局一歩踏み出してきてくれる男性がいいんだよな。本当よ。若い娘さんたちに告ぐ…デートしていてウィンドウに映った自分の姿を見て髪型を直すようなナルな男はやめた方がいいです。男性は適度に荒っぽくて、がさつで、でも肝心なところで繊細に女性を気遣ってくれるような人がいい。真面目な人がいい。

この松島君は、かなり強引に美月さんのことを助けようとしてくれている。こんな踏み込んだアプローチは普通ならたぶん嫌だと思う女の子も多いと思う。でも彼は強引そうに見えて、自分と付き合うことは強制していない。かなり礼儀正しく古風に美月さんに近づいてますよね。時には照れて冗談を言って笑ってごまかしたり…それでも彼女を好きなことはかなりはっきりと態度にも言葉にも出してくれている。女性は悪い気はしない。こういう風に男性がリードしてくれたほうが女性は安心できる。そんなところも松島君が古風に見えた理由。

若い男衆は好きな女性がいたら自分からアプローチするべし。
みんながんばれよっ…ってそこで感想をしめるのか。